コインランドリー

その日、碇シンジはコインランドリーへやってきた。
右手には、Ｙシャツのつまった紙袋が握られている。

「まったく、運がないなあ」

ここ数日の天気は雨のだった。

彼の住む家にも乾燥機があったのだが、彼の同居人である二人の女性が
使い続けたあげく、フル稼働しすぎたためか故障してしまった。

故障は明日にでも直るそうだが、彼は明日学校に着ていくシャツを
乾かすため、家から結構離れたコインランドリーまで足を運んだのだった。

彼が扉を開けると、‥‥知人がいた。

「綾波？」

綾波レイが振り向く。

「‥‥碇くん」

意外そうな顔でひとことそう言った。

「へえー、綾波がこういうところに来るなんて、意外だね」
「そうかしら」
「あ、いや、別に変な意味じゃないんだ。いつもここに来るの？」
「‥ときどき」
「ふーん、そう」

レイは、コインを入れて回り始めたのを確認すると、扉へ向かう。

「ちょっと出掛けてくるわ」
「え？」
「すぐに戻るから見ていてくれる？」
「ああ、うん」
「‥‥下着、盗らないでね」
「そ、そんなわけないじゃないか」

真っ赤になってシンジは抗議するが、レイはさっさと出ていってしまった。
シンジはひとりになったが、だからといって、何か盗んだり出来るわけもない。

自分の洗濯物の乾燥が終わったあとも、ちらちらと目線をおちつきなく
動かしながら待っていた。
しばらくするとレイが帰ってきた。

レイは紙袋を取り出すと、次々と下着や洋服などを入れ始めた。

			●

シンジが家に帰って、袋の中身を覗いて驚いた。
中には、女子中学生の制服が入っていた。

「あれ？これ、綾波の‥？」

そういえば、綾波は三袋分も洗濯ものを貯めていた。同じネルフロゴの
紙袋だったので、シンジの袋と間違えたのだろう。

			●

シンジは夜をだいぶ更けていたが、綾波の家へ紙袋を持ってやってきた。

「綾波‥‥いる？」

返事はない。ノブをひねるとガチャリと開く。
シンジはとまどいながらもドアを開け、中に入る。

「綾波、入るよ」

綾波レイは果たして‥‥居た。
シンジが玄関に立つと、ちょうどレイが振り向いた。
なぜかシンジのＹシャツを羽織っている。
その下は‥下着しかつけてないようだ。

「‥ごめんなさい。どうしても碇くんの服を着てみたくなって‥」

レイは頬を赤く染めて小さな声で言う。

「いや、僕は別に‥‥」

シンジもつられて赤くなる。
シンジは動転したが手にもっている紙袋に気づいた。

「あの、これ、綾波の制服だよね。じゃ、じゃあ、ここに置いておくね」

と玄関の近くに置こうとすると、見なれた紙袋が目に入った。中を覗くと
確かに自分のものだった。

「これ持ってかえるね」
「待って‥シャツ‥‥」

といってボタンを外し始める。あわててシンジが止める。

「い、いいよ、それはまた今度で。じゃ、じゃあまた明日」

シンジは逃げるようにレイの部屋から飛び出した。

（まったくレイはなんで無防備なんだろう。僕をなんとも思ってないのかな。
  でも‥‥惜しかったかも‥‥）

などと考えながらシンジは家へ向かって歩いていた。

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翌日、学校でシンジが友達と話していると、レイがやってきた。

「碇くん、これ‥」

ときれいに折り畳まれたシンジのシャツを差し出す。

「ありがとう」

とシンジは素直に受けとるが、周りはただでは済ませない。

「おいシンジ、どういうことだよ」
「綾波がシンジの服を持ってるってことは、綾波の部屋で服を脱いだって
  ことだよな」
「ほお、いつの間に‥」

「ちょっと、聞いてよ」

シンジは弁解しようとするとが、誰も聞いてはいなかった。
しかも、口から口へと伝わり、あっという間にクラス中の知るところと
なった。シンジはクラスメートの人垣に囲まれて見えなくなる。

その様子をみて、綾波レイはこっそりとほくそえむのだった。


おわり